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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)11829号 判決 1998年7月31日

平成九年(ワ)第一一八二九号原告

真田茂樹

ほか一名

被告

梶本忠徳

平成一〇年(ワ)第二七四号原告

真田茂樹

ほか一名

被告

旭鍍金金工業株式会社

主文

一  被告らは各自、原告らそれぞれに対し、金一二一万二六六六円及びこれに対する平成七年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告らの負担とし、その一を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求(平成九年(ワ)第一一八二九号事件及び平成一〇年(ワ)第二七四号事件)

被告らは各自、原告らそれぞれに対し、金一一一七万四九二四円及びこれに対する平成七年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告らが、原告らの父が交通事故により死亡し、損害を受けたと主張し、平成九年(ワ)第一一八二九号事件被告梶本忠徳(以下「被告梶本」という。)に対し民法七〇九条に基づき(同号事件)、平成一〇年(ワ)第二七四号事件被告旭鍍金工業株式会社に対し自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条または民法七一五条に基づき(同号事件)、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成七年二月二三日午後六時四五分ころ

(二) 場所 大阪府守口市八雲中町二丁目一番三七号先

(三) 加害車両 普通貨物自動車(大阪一一ほ四二五六)

運転者 被告梶本

(四) 被害車両 原動機付き自転車(守口市き七五五)

運転者 亡真田俊朗

(五) 事故状況 加害車両が、南から北に直進し、駐車車両の右側を通過するため、対向車線にはみ出して進行したところ、反対車線を北から南に直進してきた被害車両と衝突した。

2  責任原因

(一) 被告梶本は、進路前方の左側には数台の駐車車両があり、その右側を通過するためには対向車線にはみ出して進行しなければならず、右側を通過中に対向車線を進行してくる車両があることも予測できたのであるから、対向直進車両の有無及び同車との安全を確認したうえで対向車線にはみ出して進行するとともに、駐車車両の右側を通過中も前方を注視して安全を確認して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、駐車車両との安全確認に気を奪われ、対向直進車両の有無を確認せず、かつ、前方を注視しないまま、時速約一五キロメートルで対向車線にはみ出して進行した過失がある。

したがって、被告梶本は、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。

(二) 被告旭鍍金工業株式会社は、加害車両の所有者であり、自賠法三条に基づき、損害賠償義務を負う。

また、同被告は、被告梶本を雇用し、その業務中に本件事故が発生しており、被告旭鍍金工業株式会社は、民法七一五条に基づき、損害賠償義務を負う。

3  亡真田俊朗の死亡

亡真田俊朗は、本件事故により、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、出血性ショックの傷害を受け、平成七年四月一二日、合併症による肺水腫のため死亡した。

4  相続

原告らは、亡真田俊朗の子であり、相続人であり、法定相続分は各二分の一である。

三  原告らの主張の要旨

1  損害

(一) 入院雑費 六万三七〇〇円

(二) 休業損害 二六万五六四一円

(三) 入院付添費 二六万九五〇〇円

(四) 入院慰謝料 一二〇万円

(五) 葬儀費 一二〇万円

(六) 死亡による逸失利益 二一二〇万〇八五七円

(七) 死亡慰謝料 二四〇〇万円

(八) 損害のてん補

原告らは自賠責から二七七六万九八五〇円の支払を受けた。

(九) 弁護士費用 一九二万円

2  過失相殺

亡真田俊朗に、過失はない。

四  被告らの主張の要旨

1  過失相殺

亡真田俊朗は、前方を注視し、加害車両が対向車線に少しはみ出して、ゆっくり進行しているのを早期に発見し、回避措置をとるべきであるにもかかわらず、加害車両に気がつかず、道路の中央線寄りを進行し、ブレーキやハンドル操作などの回避措置をとることもなく、衝突した。

したがって、亡真田俊朗と被告梶本の過失の割合は、五対五とするのが相当である。

2  損害のてん補

原告らは、自賠責から二七七六万九八五〇円の支払を受けたほか、被告らは、治療費六五万三五四〇円のうち、六四万〇一五〇円を支払った。したがって、既払の合計は二八四一万円である。

五  争点

損害と過失相殺

第三判断

一  過失割合

1  被告梶本に過失があることは争いがないが、本件では過失割合に争いがあるから、事故態様について検討する。

2  証拠(乙二の一ないし一三、弁論の全趣旨)によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故現場の概況は次のとおりである。

一般的状況は、市街地であり、明るく、見通しもよい。道路状況は、アスファルト舗装され、平坦であり、四〇キロメートル規制され、駐車禁止である。

本件事故現場は、直線の、片側一車線の道路であり、中央線が黄色実線で標示されている。車道の幅は、片側約三・一メートルであり、約〇・六ないし〇・九メートルの路側帯がある。

(二) 現場は、道路両側に、飲食店、個人商店があり、商店街となっており、昼夜を問わず、駐車車両が多い。

そのため、車両は、道路中央寄りを進行することになる。

(三) 被告梶本は、加害車両(長さ六・七一メートル、幅二・〇三メートル、高さ二・二〇メートル、最大積載量三〇〇〇キログラム)を、前照灯を下向きに照射し、時速約三〇キロメートルで進行させていたところ、本件事故現場にさしかかった。進路前方の左側の路側帯に駐車車両があり、対向車線を対向車両が進行してきたため、すれ違うことができないと思い、駐車車両の約七・五メートル手前で一時停止をした。

そして、対向車両が通過したことから、右の方向指示器を操作して合図を出し、ハンドルを右に切って発進した。駐車車両の手前約三・三メートルの地点からは、駐車車両と接触をしないように、駐車車両の方を見て進行を続けた(その地点では、加害車両は約〇・四メートル対向車線にはみ出ていた。)。そこからさらに約七・二メートル進行した地点(直近の駐車車両のほぼ右側に進行した地点)に達したとき、駐車車両に接触しないで安全に通行できると思い、前方を見たところ、対向車線上に、前方約七・七メートルの地点を中央線寄りに進行してくる被害車両を発見した(その地点では、加害車両は、約〇・七メートル対向車線にはみ出ており、速度は、時速約一五キロメートルであった。)。そのため、危ないと思い、急ブレーキをかけ、約三・三メートル進んで停止した(その地点では、加害車両は、約〇・九メートル対向車線にはみ出ていた。)。しかし、加害車両の右前部が被害車両の前輪部分に衝突し、亡真田俊朗が転倒した。

3  これらの事実に基づき、被告梶本の過失を検討すると、被告梶本が、加害車両を対向車線にはみ出させて進行させているにもかかわらず、駐車車両との車間距離に気をとられ、進路前方の注視を怠り、対向車両に対する安全確認を怠ったことが本件事故の大きな原因であると認められるから、亡真田俊朗の過失に比べて、被告梶山の過失は大きいというべきである。

他方、亡真田俊朗の過失を検討すると、本件事故現場は駐車車両が多く、中央線付近を進行してくる対向車両があることを容易に予想できるし、道路は直線で見通しがよいから、対向車両を早期に発見することも十分可能である。そして、本件では、被告梶山は、一時停止後、前照灯を照射させ、右折の合図を出して発進させ、衝突直前の速度も時速約一五キロメートルにすぎず、衝突時には約〇・九メートル対向車線にはみ出していたにすぎない。これに対し、亡真田俊朗は、被害車両を中央線寄りに進行させているし、何らかの回避措置をとった形跡は窺われない。

そうであれば、亡真田俊朗は、早期に加害車両を発見し、適切な運転またはブレーキ操作などをして、衝突を回避すべき義務があったというべきであり、同人に過失がないとまではいえない。

そして、前記認定によれば、被告梶山と亡真田俊朗の過失割合は、八対二とすることが相当である。

4  これに対し、原告らは、亡真田俊朗には過失がなく、具体的には、加害車両が飛び出し、より対向車線にはみ出して被害車両と衝突したと主張するとともに、その理由は、実況見分調書(乙二の六)における被告梶本の説明が不自然で不合理であるからであると主張する。

しかし、加害車両が中央線を越えて対向車線に飛び出し、より対向車線にはみ出したことを裏付ける証拠はない。また、被告梶本の説明は、前方を注視しないで、加害車両を対向車線にはみ出させて進行させたという点においては、何ら不自然や不合理な点はない。

したがって、原告らの主張を認めることはできない。

二  損害

1  入院雑費 六万三七〇〇円

入院雑費は、争いがないので、原告ら主張の六万三七〇〇円を損害と認めることができる。

2  休業損害 一七万九九三九円

(一) 亡真田俊朗が、株式会社長谷工ライフ関西に勤務し、分譲マンションの管理人の仕事をし、一か月一六万五五〇〇円の収入を得ていたこと、本件事故により、四八日間欠勤したこと、ただし、八万四八二九円の一部支給を受けたことは争いがない。

(二) したがって、一六万五五〇〇円を三〇日で除した一日五五一六円に、休業期間の四八日を乗じた二六万四一七六八円から、一部支給分八万四八二九円を控除した。

一七万九九三九円が損害となる。

3  入院付添費 〇円

(一) 証拠(甲八の一ないし六、九、原告真田茂樹の供述、弁論の全趣旨)によれば、亡真田俊朗と原告らの母真田明子が昭和五八年一〇月二四日に離婚し、母が原告らの親権者になったこと、原告らは母親と同居し、それ以降亡真田俊朗と会っていないし、電話で話したこともないこと、そのため、本件事故後、同人の妹武知尚子が主に付き添ったこと、同人が原告らに連絡したことから、原告らは亡真田俊朗を見舞ったが、二日程度であり、その具体的な内容も明らかではないことなどが認められる。

(二) これらの事実によれば、原告らが亡真田俊朗に付き添ったとまでは認められず、入院付添費を要したと認めることはできない。

(三) これに対し、原告らは、亡真田俊朗を見舞った旨の主張をするが、仮にその事実が認められるとしても、前記のとおり付き添いの具体的な内容が明らかではなく、入院付添費を要したと認めることはできない。

また、原告らは、亡真田俊朗の妹が主に付き添い、同人に対し、その経費を支払った旨の主張をし、甲一〇号証(妹作成のメモ)を提出する。しかし、これには、入院中の費用(謝礼を含む。)とか、交通費や宿泊費などと記載されているにすぎず、それ以上の具体的な内容は明らかではない。したがって、仮に、妹が付き添ったとしても、これだけから、入院付添費を要したと認めることはできない。

4  入院慰謝料 九〇万円

(一) 亡真田俊朗が四九日間入院したことは争いがない。

(二) この事実によれば、入院慰謝料は九〇万円が相当である。

5  葬儀費用 一二〇万円

葬儀費用は争いがないから、原告ら主張の一二〇万円を損害と認めることができる。

6  逸失利益 一七二九万六九八七円

(一) 前記認定のほか、亡真田俊朗は、本件事故当時六二歳であったこと、長谷工ライフ関西に勤務し、一年に二四四万四六〇〇円の収入を得ていたこと、ほかに、老齢厚生年金八三万九八八〇円の支給を受けていたこと、ただし、老齢厚生年金の基本額は二〇〇万七三〇〇円であるが、賃金収入があったため、一一六万七四二〇円が支給停止とされていたことは、争いがない。

(二) これらの事実によれば、本件事故当時の給与と老齢厚生年金の合計三二八万四四八〇円から、生活費として五〇パーセントを控除したうえ、平均余命の半分の年数九年を、中間利息を控除して(ホフマン係数七・二七八二)乗じた一一九五万二五五一円を損害と認めることができる。

また、退職した後は老齢厚生年金全額の支給を受けることができたから、基本額二〇〇万七三〇〇円から、生活費として五〇パーセントを控除したうえ、平均余命までの年数一八年(ホフマン係数一二・六〇三二)から、七一歳までの年数九年(ホフマン係数七・二七八二)を控除した年数を、中間利息を控除して(ホフマン係数五・三二五)乗じた五三四万四四三六円を損害と認めることができる。

7  死亡慰謝料

前記認定によれば、死亡慰謝料は、一八〇〇万円が相当である。

8  治療費

弁論の全趣旨によれば、治療費は、六五万三五四〇円であると認めることができる。

三  過失相殺

したがって、亡真田俊朗が被った損害額の合計は、三八二九万四一六六円と認めることができ、これに過失相殺(被告ら八割)をすると、損害額は三〇六三万五三三二円となる。

四  てん補

原告らは自賠責から、二七七六万九八五〇円の支払を受け、被告らは原告らに対し、治療費として六四万〇一五〇円を支払った。

したがって、前記損害額三〇六三万五三三二円からてん補額合計二八四一万円を控除すると、二二二万五三三二円となる。

五  弁護士費用

弁護士費用は、合計二〇万円が相当である。

六  結論

したがって、被告らは各自、原告らそれぞれに対し、二四二万五三三二円の二分の一である一二一万二六六六円を支払う義務がある。

(裁判官 齋藤清文)

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